匿名さん 2022-09-03 19:19:45 |
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【 ヘレナ・アンティパス 】
随分お疲れのようですね。…ご挨拶がしたかったんですけど、今私が話しても覚えていてくださるかが心配です。
( 部屋の中から聞こえた声は、自分の知る貴族がするような口ぶりで話していなかった。むしろどこかもっと野蛮な色さえ感じる。それに一つの計算外を感じて一瞬眉を寄せるものの、すぐにそんな表情を繕い直す。そして言葉通りに扉を開けて足を踏み入れると、目に入ったのは自分に背を向けて眠る寮長の姿。これが夕焼けの草原の第二王子だろうか。半ば人違いを疑いながらも彼を気遣うように静かに扉を閉めると、足音を鎮めながらベッドサイドの椅子へ腰を下ろす。
王族という家柄はたしかに魅力的だ。しかし、この様子を見るに彼はその家柄に見合う品を持ち合わせていないかもしれない。いくらいい家柄を得ても、それを貶められては意味がない。場合によっては彼よりも良い男を探す必要があるし、今晩のうちに見極めをつけて学園での身の振り方をなるべく早く定めたい。そんな思案を巡らせながら彼の背中を品定めするように見据え )
ねえ、せめてこちらを向いてくださらない?
──────
【 アズール・アーシェングロット 】
…なるほど。あなたの要求の理解はできました。
( 彼女の手の温もりが残る手を半ば奇妙に思いながらも、愛についての彼女の熱弁に耳を傾ける。恋人がほしいという契約なら何度か受けたことがあるし、しっかりとそれを達成できた。しかし、自分の愛がほしいというのは初めてだ。彼女は自分のことが好きなのだろうか。否、関わったことのない男を好きになるだなんて正直意味がわからない。
これから彼女に愛情を抱くようになってほしいのだろうという理解こそすれども、彼女がそれでどんな得をするのかは分からない。彼女の表情を見る限り適当な効き目の惚れ薬で誤魔化すことはできなさそうだし、彼女と時間を共にしてそれらしい素振りを見せでもすれば満足するだろうか。そんな思案を巡らせながらも、合点のいかない気味の悪さを消化したい気持ちから彼女に問い )
それにしても、何故僕なんです?あなたの寮には整った顔のインフルエンサーもいますし、男子校の中ならいくらでも男はあなたの手に入るでしょう。よりにもよって関わったことのない僕に愛を求める理由が分かりません。
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