匿名さん 2022-09-03 19:19:45 |
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【 ヘレナ・アンティパス 】
まあ、あなたよりはよほどいい育ちをしてるでしょうね。
( 申し訳程度にかけた挨拶への返事が与えられることもなく、皮肉じみた言葉が返される。彼からしたらお嬢様なのかもしれないが、自分はせいぜい没落しかけのそれだ。各国の富豪や王族のいるこの学園の中ではそれほどの金持ちでもないだろう。彼の言葉を鼻で笑い、視線は前方へ据えたまま半ば冷淡な言葉を返す。
転寮の勧めをするということは、自分がサバナクローには適応できないとでも言いたいのだろうか。子どものように揺れる脚やその姿勢をじっと品定めするように横目で眺めた後、今のところこの生徒と進んで仲良くする必要はないだろうと判断を下す。ポムフィオーレの生徒で有力な家柄の者は知らないし、転寮へのメリットも見出だせない。サバナクローで夕焼けの草原の第二王子を仕留められるほうがきっと好都合だ。そんな自分の企みが露呈しないように穏やかな口調で答えを告げては、最後の一人の配寮が終わるまでを見届けて )
それはお気遣いありがとう。あいにくだけど、闇の鏡の配寮には満足してるから。
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【 セベク・ジグボルト 】
し…仕方ないな、どうしてもと言うなら手伝ってやろう!
( 自分から離れていく彼女の後ろ姿を呆然と見つめる。自分よりも華奢な肩のシルエットや、柔らかそうな脚。歴史を帯びた校舎の廊下をカツカツと歩く足音さえ頭の奥に焼き付くような心地がする。このまま呼び止めて名前を聞きたい。彼女の声をもっと聞きたいし、その目に見据えられたい。彼女の整った顔立ちがどんな表情を見せるのか、全て見てみたい。
しかし、仮にも誇り高い妖精族の一員である自分が人間の女ごときに興味を持っているなんて周囲に知られたら、マレウス様の顔に泥を塗ることになるかもしれない。そう必死に自制していた矢先、彼女が自らこちらを振り向いた。荷物を運ぶ手伝いを頼まれてしまえば、格好の理由ができたような気がして思わず目が輝く。長い睫毛が彼女の目元に儚い影を作るのにどきりとしてしまいながら、それを誤魔化すように高慢な口ぶりで承諾する。つかつかと彼女に歩み寄っては、胸のときめきを必死に顔に表さないように努めながら散らばった教材を拾い集め )
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