飼い主(仮) 2022-08-31 22:16:54 |
通報 |
……。
(丁寧な青年の態度に獣医は気にしないでほしいと言わんばかりに、かぶりを振って「お大事に」と一言だけ伝える。青年が子猫の柔らかい肢体を慎重な手つきで籠の中に仕舞い込んだあとすぐに、見計らったようなタイミングでゆっくりと待合室へと繋がるドアが開かれ、それから幾ばくかの時が過ぎ去り、青年は病院の白い床から固いコンクリートへと変わった道を歩いているようだった。子猫は少々慣れない揺れに身体を支配されつつも、やはりというか、どこか安堵したような気持ちで、これまた慣れない臭いのするタオルに顔を埋めた。)
…ミ…ミ…。
(暫く同じような揺れに五体を沈めていたが、程なくしてそれは一際大きな振動を伴って落ち着いた。心地よさを与えていたものが停滞したことにより、子猫は朧げな意識を現に持ち上げて耳をそばだてた。ふと、周囲に漂う臭いがいつの間にか変わっていることに気が付き、彼は不安から声を発した。相変わらず上手く開かない口であったが、くぐもったそれはキャリーの中で響いた。)
トピック検索 |