飼い主(仮) 2022-08-31 22:16:54 |
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(青年の生真面目な受け答えに獣医は「シャンプーも傷が完全に治れば直接つけても大丈夫だし、まああんまり固くならないでください。何かわからないことがあれば、私に連絡をください。相談にのりますから。今日もう終わりの時間なので。」と口を動かしながら、スチールが無機質な両袖机、その袖箱から無地の付箋を一枚剥がして手に取った。男は眠そうな瞳を更に細めて、白衣の胸ポケットから取り出したボールペンをそれに滑らせていく。そうして書き殴りの電話番号を青年へと差し出した。その間、子猫の意識は夢と現の狭間をふらふらと歩いていたが、その心は先程よりもずっと穏やかなように思えた。彼にとっては、少なくともここは公園よりかはずっと暖かい場所だったのだ。遠慮がちに尋ねる青年の言葉に男は「ああ」と思い出したかのように小さく声を上げる。四隅の引っ込んだところに寝かせてあったのか、医者はそこから小型のキャリーを持ち上げて、その中に些か雑な手つきでタオルを突っ込んだ。「このキャリーをお貸ししますよ。タオルいれときますから。タオルの方は返さなくてもいいので、子猫はなるたけ30度ぐらいで暖かくしてあげてくださいね。」)
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