飼い主(仮) 2022-08-31 22:16:54 |
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(がさがさとした子猫の頭部を柔らかな温もりが撫でる感触。その心地に彼は身じろいだが、それは不快感を覚えてのことではなく、寧ろ今までに感じたことのないものへの受け入れがたさからだったかもしれない。その頭上で紡がれる言葉は、子猫にとって時折記憶の奥まった場所に眠る母の子守歌にも似た居心地を与え、彼が再び微睡み始めるのにそう時間はかからなかった。「そうですねえ…」初老の男性は青年の質問に数秒考える素振りを見せたが、まま息を継ぎながら、こう穏やかに話し出した。「他の動物と同じように、人間の食べ物は強請られても与えないこと。あとは…ああ、そうだ。さっき言った傷はもう殆ど塞がってるけど、念のために低刺激のシャンプーこっちで出しますから、それで洗ってください。どうしても暴れる場合は、洗濯ネットに入れて洗った方がいいですよ。ちょっとかわいそうに思うかもしれませんけど、お互い傷つかないので。それから、シャンプー液は直接つけずにぬるま湯を張った洗面器に溶かして使ってください。多分何回もお湯変えることになっちゃうけど、それは最初の一回だけなので大丈夫でしょう。」獣医は話している途中、気だるげに自身の顎に残った髭を触っていたが、その実言葉の端々には不思議と接した者に丁寧な印象を抱かせる節があった。少なからず、時折二人の話に耳を傾けながら微睡みの中に身体を預けていた子猫にはそういう心証を与えた。)
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