飼い主(仮) 2022-08-31 22:16:54 |
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…ミ゛ッ…!
(青年は暴れる猫の様が気がかりだったのか、不安げに獣医と子猫に視線を遣ったが、彼はそれに対して「まぁ…慣れてますから」と苦笑いを零しただけだった。獣医の腕の中でなすが儘に、身体のあちこちを無遠慮に触られる心地は不愉快そのものだったが、子猫はそれ以上何かする気力もなく、ぐったりと頭を垂れていた。ところが、さすもの彼も二度ほど下から体温計やら細い棒やらを突っ込まれた時は垂れていた頭を持ち上げて小さな悲鳴を発した。そうして、一通り診察を終えた獣医から小さな頷きと共に「成程ね」という独り言が白い部屋に響いた。すると、作業が一段落した気持ちが獣医の拘束を緩ませたのか、子猫は彼の手をすり抜けると、半ば意識の危うさを感じさせる足取りで青年の方へ歩を進めた。子猫はもはや段ボールに入る気力さえも奪われてしまった様子で、そのまま彼に寄り添うように身体を預ける。「ちょっと体温が下がっていて分からなかったけれど、どうやら脱水になってるようですね。下痢っぽいから何か変なものでも食べちゃったかな。この時期はまだ消化器官がしっかりしてないですから。」獣医は棚から2つ、サーモン風味とプリントされた離乳食の缶詰を取り出すと、続けて「帰ったらまず水分補給させてあげてください。それからこれ、ついこの間離乳食離れした子のものなんですが、まだ空けていないので塗り薬と一緒に渡しておきます。」と言って、それらを袋に詰める。「うーん…あとはですね。その子身体の傷を先ほど診させて頂いたと思うんですが、ちょっと不自然な傷がところどころ入ってまして…もしかしたら誰かから怖いことされちゃったかな…と」獣医はやるせなさを含んだ瞳を子猫に向けた。)
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