六彩 2022-08-28 11:47:18 |
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(換気のためにと軽く開いた窓から吹き込む温かな風に擽られ、くふりと欠伸を洩らす穏やかな昼下がり。家庭科室の作業台で新作ケーキの図案を描き出していると、元気な挨拶とともにドアが開け放たれる。目を遣らずとも声の主は明白。それは、後輩の声がいつもいつも不必要なほどに大きいからだとか、声を聞き分けられるほど親しい間柄だからだとか、決してそんな理由ではなく、単に家庭科部の部員が僕と彼女の二人しかいないからだ。いつにも増して上機嫌に見える彼女は、最短の動線で僕の前まで来ると手に持ったケーキ箱を作業台の上に置き、まるで見せびらかすかのように開く。中に見えるのは無論、ケーキ。色とりどりの宝石のようなそれらに否応なく目を惹かれるが、食欲より先に疑問が湧き、それをそのまま口に出す。一応断っておくと、今日、家庭科部に来客の予定はない)
……多くないか?
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