匿名さん 2022-08-02 08:33:24 |
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( 飲み物の要望を告げれば、ほどなくして目の前のテーブルに湯気の立つ紅茶が置かれる。お礼の一言とともにティーカップを顔の前まで持ち上げると、独特の甘い香りが鼻腔を蕩かして。紅茶には明るくないけれど、これがアッサムティーであるということは分かる。彼女と付き合い始めてから増えた知識の一つだ。彼女の注意に従って赤茶色の水面に軽く息を吹き掛けていれば、不意の問い掛けに「いいよ」の言葉と頷きで答える。生クリームがたっぷりと使われたショートケーキと、季節の果物がふんだんに乗せられたフルーツタルト。喜んでくれるだろうとは思いながらも、実際にその反応を見るまではどこか落ち着かない気持ちで。やっと飲める温度になった紅茶を一口啜りながら、彼女の様子を伺う。いつ本題を切り出されるのだろうかと、聞きたいような、聞きたくないような複雑な心持ちで居れば、その瞬間は案外あっさりと訪れ。少し身体を強張らせた直後、打ち明けられた予想外の真実に拍子抜けした声が洩れる。同時にどっと安堵感が押し寄せれば、僅かに感情の紐が緩み。普段より打算なくストレートに愛情表現するも、その言葉には証明しようのない厄介な嘘が混ざって )──は? ……なんだ。行くわけないだろ。仲良く見えたかもしれないけど、あんなのただの演技。
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