狐の面 2022-06-16 12:41:30 |
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【巫 菖蒲】
いえ、私の事を思ってだと理解してますし
少し…驚きましたけど、怒ってくれてありがとうございます。
(申し訳なさそうに昼間の事を謝罪する御言様に、確かに初めは答えを間違えたと思って焦ったし彼の一言で処遇なんてあっという間に、それこそ弁明も無く決まってしまうだろう。だが、彼は永く生きている狐の化身。狐の本分である化かしや知恵、悪戯好きといったものはあるのかどうかまだ分からない。でも永く生きているという事はそれだけ余裕というものがある筈。本当にしでかさない限りはこちらの言い分を聞いてくれる人だと今日のやり取りで学んだ。勿論そんな事が無いのが1番ではあるが。
それに昼間の事は自分を思っての発言だ、この家で自分の為に言葉を尽くしたり、心を砕いてくれる人はほぼ居ないと言っても良い。そんな中家の中でも上位の立場に君臨する御言様は自分を今の所気に入ってくれている様子で、それに胡座をかくつもりも無いし、彼の迷惑になるような事はしたくない。嫁としてこの家に選ばれた以上は1日も精神的安寧の為に教育や教養を身に付ける事だろう。それでも御言様の言葉は嬉しかった、本当に味方なのかもしれないと思った。ここに来てまだ数日、完全に心を許すのはまだ早いが、今日あったことはきちんと覚えておこうと思う。
そのまま抱き上げられるように床へと立たされれば、少しだけ着崩れた着物を見苦しくないように整える。今日の着物は薄い水色の絵画風の花々があしらわれた手触りの良い着物である。皺になったらいけないとも思うが、自分が持つ紫色の瞳もあって何だか紫陽花みたいだなと感想を抱く。
畳の井草の匂いがして、これと言って特に物も置いていない殺風景な部屋。物が無いこともそうだが、部屋が広いのもあって余計に広く感じるのだろう。そんな部屋がこの屋敷には多い。広く、美しい日本屋敷で使われている部屋はきっと片手で収まる程であとの部屋は空き室に近い特に用というものは無い、見栄と繁栄を目に見える形で見せたい。そんな気持ちの表れだろう。
そんな事を考えていれば、声がした方へ振り向き)
【女中】
御言様、花嫁様。
夕餉の支度が出来ましたので、ご連絡致します。
広間へといらしてお食事を。
(縁側へと座り、誰にもその姿は見えないし部屋の中にいる2人との間には白い障子があるのみで見えるのはこちらの体勢の影だけだろう。それでも指を床へと付き、正座をして背筋を伸ばし綺麗な所作で礼の体勢を取り、視線は床へと注がれている。そしていつものように、淡々とした抑揚の少ない声で業務連絡をしては御言様と花嫁様は今は一緒だと別の女中から聞いている。仲睦まじいのは良い事だが、案内役は自分にと割り振られた為、スっと立ち上がると2人が部屋を出てきても邪魔にならず尚且つ案内をする際にすぐに動ける場所へと移動すれば、2人が出てくるのを待ち、出てきたのを確認すれば「こちらです」と御言様にとってはいつものウンザリした業務で、花嫁様にとってはまだ数回の案内を無表情で失礼のないようにしずしずと言った歩き方で2人を先導するように広間へと歩き出して)
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