狐の面 2022-06-16 12:41:30 |
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はははっ。怒りやしない、お前さんのお気に召したようで光栄だよ。──先程すまなかったな、怖い思いをさせただろう。だが、お前はこれから、お作法や学校で習うような勉学とは程遠いものを身に付けるための“修行”がある……辛い時はいつでも私に言いなさい。厭だと感じたらいつでも私を喚びなさい。
(紙風船のような軽さを覚える相手は簡単にすっぽりと大きな体と腕の中に収まってしまう。片手で自身の頭を支えながら、空いている片腕の力を少しだけ緩めてやれば、素直に話す相手に思わず笑いが溢れてしまい。機嫌を損ねぬようにと教わったのかどこか恭しい相手の態度はまだまだ致し方ないがこうして遊び心があるのだから、今との頃は問題ないかと考えられる。少しでも息抜きの時間を提供が出来たのならば万々歳で年相応の言動が見れたのもこれまた嬉しい限り。横目で散らばる髪のうちの少しだけの束が確かに編み込まれており、しかし途中で止まっていて今でも解けてしまいそうだがまたいつかの楽しみにとっておくとしよう。満足気にうんうん、と頷いたところで不意に緩めていた目元を元に戻してはどこか真剣でそれでいて悲しそうに目尻をほんの少しだけ下げると、そっと相手の後頭部を背中へと回していた片手で撫でて。何も聞かされずただきっと最初は新しい生活を夢見て引き取られて来たかもしれないのに、蓋を開けてみれば嫁だのお作法だのと言われ普通からはかけ離れた世界に放り込まれ、受け入れてくれる者とそうでない者の間に挟まれて、どれだけ心細いことだろうか。しかしそれでも迫り来るそれらから逃げることを許されないのならばと何度も思ってきたこと。ひとつだけ吐息を吐き出しては困ったような笑みを最後に浮かべ、再度軽く頭を撫でては「さて、意外と寝てしまっていたようだ。そろそろ夕餉の支度が出来たと人が呼びに来るだろう…私も食べるとしよう。久方ぶりに怒ったからな、腹が減った」よっこいせ、と片腕で相手を抱きながら起き上がれば、相手を床へと立たせてやり名残惜しそうに散らばった髪を方指で梳いたところで襖の向こうから声がかかり)
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