狐の面 2022-06-16 12:41:30 |
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……もうよい。私は暫く寝ると使用人に出会ったら伝えておいてくれ。夕餉も要らぬと。風呂の時間に起こせともな。
(部屋から出ていく様子を目元を細めて見送れば鼓膜へ届く人の話し声や物音が些か今の状態では余計に苛立ちを覚えてしまい、尾が素直に揺れている。しかし細く聞こえた声に其方へと視線を向けると、小さな頭を下げる姿が見て取れて。空気から伝わる感情は手に取るようによく分かり、今までの嫁だった者たちとは違うのだなと呑気に考えているが軽く頭を撫でてやればそれでもどこかまだぶっきらぼうな言い方は拭い去ることは出来ずに、口早に説明すると「ではな」と短く言葉を掛けてはふわりと風が吹けばその場から姿を消していて。邸の奥のさらに奥にある小さな小さな中庭を望める縁側へと音もなく着地しては定位置に置いてある煙管と灰皿を引き寄せてはごろりと横になり、右手で頭を支えながら横向き縁側を見つめ、左手に持った煙管は火を付けなくとも吸い込めばいつの間にか灯火が。ふぅ、と紫煙を中庭へ吹き込んでやれば微かに虹色に輝くそれが包み込んで何も無いそこに花々が咲き誇り、それをぼんやり眺めると大人気ない態度であったかと先程までのやり取りを思い返してはいつもはピンッと立っている両耳も力なく項垂れ。ひとつ溜息を零すとカンッ、と灰皿に灰を落としてはそのまま置いて、仰向けに体勢を直しては近くにあった座布団を引き寄せてふたつに折ると枕替わりに。木目の天井を見上げながら気にもせず襲ってくる睡魔には適うこともなく、そのまま眠りに落ちていき)
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