狐の面 2022-06-16 12:41:30 |
通報 |
菖蒲、お前は口を噤んでおれ。──良いか、女よ。この娘はまだ年端もいかぬ赤子同然。これから義務教育の小学校にも通うことになる…学校に家でも躾ばかりでは息も詰まる。それに──こんな幼子が傷を作って外に出てみろ、“我が一族も堕ちたもの”だと思われると考えぬか………もうよい、下がれ。菖蒲、お前も昼を食べてきなさい。
(顎の先に触れた相手の体温、鼓動、纏う気でさえ手に取るように伝わってきて愉快なもの。後ろで必死に女を庇う健気な娘、確かに最初は誰でも完璧にこなせはしないし覚えることも出来ない。無駄に位やしきたり、名を重んじるこの一族したら早く一人前になってもらいたいという気持ちも分からなくはないがそれはあくまでもこちらの一方的考えであり押し付けである。普通ならば引き取られることもなかった娘が、箱を開けてみればこんな普通とはかけ離れた世界に放り出されて不安に押し潰されそうになりながら必死に食らいついていこうとしている娘の心も露知らずとは、無礼にも程がある。わたわたと言葉を口にする娘にピシャリと言い放てば黄金の瞳をすうっと細め僅かに歪んだ口元から覗いた犬歯、そっと耳打ちするように顔を近付けては鼻で笑うように小さく鳴らしては直ぐに離して扇子も離すと軽く手を振り下がれと)
トピック検索 |