狐の面 2022-06-16 12:41:30 |
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【菖蒲】
ご、ごめんなさい……。
………えっと…そうです、でも……私がもっと上手く舞が出来れば良かったので……怒るのは程々に…。
(しまった、自分はどうやら受け答えを間違えたらしい。それは自分の発した言葉の後の御言様から発せられる冷たい─背筋に氷を入れられたような冷たく静かな、それでいて苛烈な怒気を身に浴びればすぐに分かる。どうしよう、目の前の彼の機嫌を更に損ねるのは良く無いのは明確。焦っているのかいつもよりも回らない思考を張り巡らせて言葉を考える。考えに考えて出た言葉はいつもよりも弱々しい声音で御言様に謝罪をし。次いで問われた言葉には肯定を示すも、嘘は付きたくない。嘘と化かしは昔から狐と狸の領分。狐である彼の領分を人である自分が踏み潰してもいけないし、何より人と彼とでは言葉通り格が違うのだ。ここは素直になろうと、言葉を連ねるが彼がその気になったら人なんてそれこそ火を息で吹き消すようにその命も散らせるだろう。流石にそんな事はしないと思いたいが、自分も悪かったのだと一応のフォローを入れて)
【女中】
御言様?
…………あぁ、「それ」は確かに私がやりました。
ですが、私は本家より仰せつかった花嫁様の教育係でございます。
花嫁様は御言様の隣に立っても恥じることの無い美しい立ち振る舞いや言葉遣い、知識。
それらを身につけて頂くための通過儀礼にございません。
(ただ食事を運ぶだけで終わる筈だったのだが、扇の先で顎を上げられ半ば強制的に顔を上げれば、目に入るのは月と見紛うばかりに美しい黄金の瞳にどこか激昂している表情の御言様。何かあったかと思い、視線を巡らせれば青い畳が何畳も敷かれた大きな広間にその中央に置かれた大きな食事机、その上に置かれた栄養バランスも取れた和食でいて、品数も豊富な豪勢な食事。その部屋でどこか居心地悪そうにしている花嫁として選ばれた、施設から引き取ったあの少女。御言様から匂いと言われ、少し小首を傾げて考えた後、何を示しているのか察すれば、なんの悪びれも無くむしろ必要な事であり、それは回り回って御言様の品を下げない為だと顔色も変えず、どこか淡々とした口調で説明をして)
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