狐の面 2022-06-16 12:41:30 |
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そうか──お前は、狐に嘘をつくか。いいか私は………、嗚呼──、“お前”か。菖蒲よ、この女だな…?同じ“香り”がするなァ……私の鼻は誤魔化せんよ。
(じっと見つめた小さな手の甲、微かに滲む血の香りはとても芳醇でまるで薬物のように魅惑的で刺激的。“印”をつけたその日から、毛髪の1本に至るまで自分のモノましてや花嫁となった者の血などに惑わされないわけが無い。しかしこのまだまだ赤子も同然な娘は優しさで嘘をつく。見ていなければ気が付かないとでも考えているのか否かは今知る由もないが、自分を守るためではなく他人を守るためにつく嘘のなんとも醜いことだろうか、この家の者が今回の花嫁として選んだ娘を良いとする者もいれば反対の意見を持つ者も多いのは知っているしそれが使用人にも広がっているのは理解していた。平気で嘘をつく娘にも腹が立つが“自分の”嫁に対する態度もとてつもなく気に入らない。僅かに細めた瞳をさらに煌めく黄金色へと変化させると、少しだけ口の端を持ち上げて意地の悪い笑みをひとつ浮かべては鋭い犬歯がちらりと覗く。ほんの少しだけ叱ってやろうかと口を開きかけたが静かに横へと動いた障子に其方へ視線を向けると、昼はどうせひとりだから要らぬと何度も言っているのにわざわざ飯を用意して持ってくる健気な使用人の姿、顔をあげて視線がかち合うと微かに鼻に香るそれに眉を酷く寄せては今まで掴んでいた娘の手を離し、部屋と廊下の境目のそこへ片膝をついて座ると扇子の先で使用人の顎を持ち上げさせては緩やかに小首を傾げた後に、立ち尽くす娘へと問いかけて)
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