狐の面 2022-06-16 12:41:30 |
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(ぼんやりと閉じていた意識が段々と鮮明になったのは人間には到底理解出来ない─ましてや現代では特に─頭の上に生えた耳へとあの幼子の聲が聴こえた為。ハッと我に返るように顔を上げては鼻に燻る“微かな血の香り”に腹の底から湧き出る憤怒の色を隠す事は出来ずに、普段は鈍い黄金色の瞳も煌めくものへと色を宿してはざわりざわりと血が騒ぐのがよく理解出来て。眉根を深く寄せて顔に現れたのは不機嫌と怒りの色、立ち上がり瞼を伏せては微かに聴こえる心の音に音も立てずにその場から姿を消しては気がつけば相手の座っている縁側の前へと姿を表すと室内へと顔を覗かせている相手の元へ大股で近づくとようやく気が付いた様子の相手だが声を掛ける前に棒切れのような細い手首へと腕を伸ばしては掴んで立ち上がらせては半ば引き摺るような形でその場を後にして、無言のままざわつく胸に届く相手の早鐘のような心の音を無視して邸の奥の更に奥にある己の部屋まで着くとかたてで乱暴に襖を開けては、相手を押し込むように中へと腕を強く引いて放り込んでは己も入り後ろ手で襖を閉めると日が当たりにくくやや暗い室内は丸窓からの光が頼りで。煌めく金を動かして、相手の手の甲にある“小さな赤み”、普通ならば血の滲みなど分からないがよく効く鼻には噎せ返るほど分かるもので、身をかがめてては相手の腕を掴んで引き寄せてその甲をじっと見つめてはやっと言葉を発して)
───誰にやられた。
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