狐の面 2022-06-16 12:41:30 |
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いたた……強く引っ張るな、髪が抜ける。──嗚呼、そう言えばあの娘に着せるのは毎度のように白無垢だな?色を変更だ、菖蒲色にしろ。あの“目”は気に入った。
(屋敷の奥にある自室は無駄に広いが恐ろしい程に物が無い。長くながく生きてはきたが散らかる様がとても嫌でほとんど物は置かないと決めていた。低めのテーブルに壁一面にある本棚にはたくさんの本が並び、大きな箪笥には洋服と和服が入っている。丸窓の近くには大きな布団があり、窓の壁に寄りかかり表の庭と負けぬ程の中庭を眺めるのが好きであった。そんな自室、屏風の向こうで数名の女中に囲まれながら支度をされていると櫛で髪を解かされ絡まったそれに僅かに眉間へ皺をよせつつ、幾重にも重ねられた黒の狩衣へと袖を通し動きにくさに尾を垂らして。そうだと、脇に控えていた本家の連中に白無垢の変更を告げては時間が無いなどと言われるも聞く素振りを見せず。此方の視線と交わったあの瞳の何と美しき事か、菖蒲色とはよく言ったものだと考えながら扇子片手に一足先にと先程の部屋へと戻り。廊下を歩いていればこの耳に届く人の声、どうやら既にたくさんの一族の者が集まっているようで聞きたくもない話や声は耳に届いてしまい眉間へ皺を寄せるも襖を開けて中に入れば一瞬静まり返る場。少しだけ冷たい視線を送ると目元を細め、だがひとつ笑みを浮かべると「まぁ楽しむが良い」と一言。上座、少しだけ高くなったそこには豪華な装飾に盃があり、上手の方の座布団に腰掛けると肘置きに肘を置いては片膝を立てて再びくだらない話で盛り上がるそれを見つめながらも庭へと視線を向け)
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