狐の面 2022-06-16 12:41:30 |
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──菖蒲とはよく言ったものだな。良い名だ。さて、これから式がある。夫婦になるための式だ。
(この生娘がどこの出生かなど正直興味は無い。何処ぞの娘だろうと必要なものは己に対する“気持ち”だけ。嫌悪だろうと歓喜だろうと、それが自ずと変われば良いが変わらなければそれはそれで致し方無し。僅かに呑んだ息の音を耳に捉えながらもゆっくりと開けられた目、合った視線のそれに満足そうにひとつ頷きながら手を離してやれば立ち上がり扇子を開き軽く扇ぎながら縁側へと視線を向け。無駄に広い庭、季節の華が咲いており濃い紫陽花のなんと美しき事か、不躾にも少し離れた所にある蔵が少々景観を壊しているが。振り返りつつ視線を下げては相手を見て)
使用人どもが支度をと急かしていてな。式は夜だ、この間で行う。その後は宴だ、今宵は無駄に人が多いが致し方ない──さ、そこに居る使用人について支度しといで。
(やれやれ。と言いたげに両耳を下げては何処か不服そうに尾を揺らしては廊下の方に待機している使用人の方へと視線を向け。軽く手を挙げれば数名の女中が入ってきて、相手へと軽く手をひらりと翻しては上座の方へと戻りそのまま部屋を後にして行き)
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