狐の面 2022-06-16 12:41:30 |
通報 |
清めだのなんだのと面倒なものだ──
(立派な日本家屋、巫家。先祖代々より妖狐と契約し繁栄を齎してきた一族。昔はこの家にもたくさんの人間が居たが今となっては“現”当主の年老いた無駄に気の強い婆さんと数名の分家連中に使用人の女中ぐらいだけで次期当主を継ぐはずだった、子は息子で妻を持ちさっさと外へと出て行ってしまった。しかしながら今日は違う、やけに屋敷には車が止まり離れていた親戚や本家の連中も集まり活気がある。屋敷の奥にある禊場で白装束を着て湯に浸かっていれば扉の向こうで使用人が装束の用意をしているのに気が付き。さっさと出ていこうかと湯から上がると軽く耳と尾を振り水気を飛ばし、脱衣所へ出ては身体を拭かれ無駄に重ね着をされている狩衣へ着替えるよう促されるもそれを断りいつものだらしのない和服へと袖を通し、困惑しているとも諦めているとも取れる使用人の連中を置き去りにしては謁見の間へと足を運び。まだ準備が等と制されるも構わず襖を開けて入れば下がった御簾の向こうで小さく丸まっている少女の姿。用意されている座布団に腰を下ろしては肘置きに左肘を着いて、身体を崩し影に控えている使用人へ軽く手を上げてはスルスルと静かな音を立てて御簾が上がっていき。無駄に良い目と耳には、震えている指先も早鐘のような小さな心臓の音さえも捉えていて。右手に持った扇子をパチリと閉じては一言)
狐の屋敷へようこそ──地べたを這うようにしていては無様だ、面を上げよ。
トピック検索 |