匿名さん 2022-04-24 11:11:17 |
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(てっきり二、三は小言を言われるものと思っていた、もちろん聞き流すつもりでいたが。しかし相手が実際に口にしたのは、純然たる感謝の言葉。その屈託のない眩しい笑顔に、思いきり顔をしかめてしまう。──変な女だ、と吐き捨てる心の声は、ひと月前にも抱いたもの。最初に出会ったあのときも、この女はおかしかった。公安ハンターらの制圧に抵抗して荒れ狂う自分を銀糸で拘束しておきながら、使命感が混ざりつつも泣きそうな顔と、こちらの痛みを案じる心配の声を向けてきたのだ。初対面のくせに、こちらを有害と看做し捕らえにかかっているくせに。真心からのものだと伝わってしまうぶん、余計に薄気味悪かったのは記憶に新しい。そして今もまた、あの時と同じ落ち着かなさが胸に渦巻いている。十年近く犯罪の温床で悪意や欺瞞に浸ってきた自分には、相手の純真さはいっそ毒として染み入ってくるのだ。故に、称賛を紡ぐ声は、ただ目を逸らすことで冷淡にも一蹴。先程まで職業意識など欠片もなかった筈が、繋がれた手首をくいと引っ張り、見回りの続きをやるぞと無言で伝え。その時だった、配布されていたインカムに司令の音声が入ったのは。『センターからハンター402、609。歌舞伎町花道通りにて、悪魔出現の通報あり。体長5メートルほどで背面に多数の針、制圧に当たっていた民間ハンター含め怪我人多数との情報。現在東新宿方面に逃走中、ただちに現急願います』──どうやら、ここからすぐのところで物々しい事件が起きているらしい。応答は今日の責任者である相手に任せ、辺りを見回してどちらに走るべきか確認を。流石に悪魔関連で被害者が出ているとなれば、多少真剣にもなるようで)
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