匿名犯罪者 2022-04-11 23:45:27 |
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(出迎えたのは、明かりのついた白い空間と酷くがらんどうな声。想定外の存在にコートの下で身構えたのも束の間、部屋の主が放つあまねく異様さに気づき、灰色の目を微かに瞠る。──驚愕、激怒、恐怖、懇願。侵入先では家主の様々な表情を見てきた。だがかれらの誰よりも幼い少女が、ここまで抜け殻のような顔を見せてくるなど、まったく前例のないことで。
床に散らばっている、壊れたり引き裂かれたりした品々、そして相手の痩せ細った矮躯と頬の痣に目をやれば、ある程度の想像はつく。だが、ローレンスたちが娘を監禁虐待しているという情報などどこにもなかった。おそらく外聞が悪いからと徹底的に隠していたのだろう……誤算は良くない兆候だ。ひとつほつれれば他も綻ぶ、縫い目を確認しなければ今宵の楽しみには興じられない。
意識が切り替わる。いずれ口封じを働く腹積もりはおくびにも出さず、娼婦たちに幾度となく使った社交用の笑みを浮かべ。歩み寄って石床に片膝をつき、こちらの目線は相手より下に。意識せずともすらすら紡げる紳士の声音で、それとなく入手情報の照合を。)
黙って邪魔して悪かったね。君の父さんと母さんに用があってここへ来たんだ。だいたいでいい、ふたりはどのくらい前に出かけたかわかるか? ロンドンのパーティーに出るのは、もしかして今日だったかな。
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