―Φ― エインヘリャルの痛哭 ―Φ―[ ダークファンタジー / キャラロスト有り ]

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μ  2022-03-04 21:32:27 ID:09beb1e04
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【 或る英雄の懊悩 】


「契約だ。どうか彼女を止めてほしい」

男の低い声は、拒否を許さない威厳と同時に心の底から希うような響きを孕んでいた。
暗闇の中、わずかな蝋燭の灯でぼんやりと浮かび上がって見えるだけの口許がニヤリと笑みを形作り、おどろおどろしいほど真っ赤に引かれたルージュがぬらりと光を反射する。

「種族の誇りよりあのじゃじゃ馬が大切だと言う事ね」

甘ったるいような、それでいて冷たさを含む声は聴くだけで毒に侵されそうだ。
男は女の問い掛けに沈黙を以て応え、女は喉奥で愉悦の笑いを転がして

「あなたの目的のためには手段を選ばない所、昔から嫌いじゃないわ。あなたが人類なのが惜しいくらい…。」

ふと蝋燭の灯りが揺らいだ瞬間、鮮血の如き真紅の唇は男のそれと重なり合っていた。
舌の粘膜を弄るような耳を塞ぎたくなる水音を響かせた後

「契約成立よ。分かっているとは思うけれどこの件に精霊の介入はご法度。あの忌々しい存在の干渉を確認した時点で、即時契約は無効――異論はないわね?」

またしても沈黙。
女は紅い唇の隙間からゾッとするほど鮮やかな青色の舌を覗かせて舌舐めずりをした後

「ああ、もう。妬いちゃうわ」

楽しげに言い残して風が吹き抜けるような音とともに姿を消した。
後に残った男は糸が切れたようにその場に膝を付き項垂れるのだった。

「…………許してくれ」



( / この世界の水面下で織り成される物語の一幕。暗く血と死臭に彩られながら一筋の光芒に向かって疾駆するような、深いダークファンタジーの世界へご興味のある方はぜひ詳細をご覧になって下さい。少しの間レス禁)




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  • No.25 by ロヴァル  2022-03-06 23:02:38 



夢を、見る。
青白く、赤黒い、苦悶と怨嗟の声に満ち満ちた夢を。


「蛮族の蔓延る大地に安寧など訪れようか。粛清なき覇道に栄光などもたらされようか。
わかるな、ロヴァル・ノルドヴァル。貴様のその清き業火で、あの畜生どもを焼き尽くせ。毛の一本も残してやるな」

饒舌な語り口。才を見込んだ若者を誑し込んで虜にし、一つの方向へ狂奔させるそのカリスマ性。
自分もその魔性にかかった。あの時は、そうとわからなかった。
……わからぬまま、真の悪鬼の狗になりさがったのだ。


「いやだよ、おにい。お願いだから、行かないで。人殺しなんかしに行かないで!」

病床で珍しく身を起こし、やけにまっすぐな瞳を潤ませて語り掛けてくる妹。
しかしそれを、優しい言葉でなだめすかす裏で、こっそり唾棄してしまった。獣を人に数えるなど愚か者の所業だと、歯牙にもかけなかった。
……聞けば、よかったのだ。


「ひとごろし」

燃える眼で睨みあげながらも、やがて光を失い、動かなくなる獣人の女。
死期の息とともに吐きだされたか細い声だったというのに、殴られたような衝撃を受けた。
……そうして、突然目が醒めた。


己の青白い炎で焼き払った戦場。
あちこちに転がる、赤黒く爛れた死体。


気づいてしまった。そこからがまさに地獄だった。
後戻りできないほど手を汚してきたと自覚しているのに、それ以上狂気にかかっていることも最早できない。

純血の悪鬼に火を放つ。かつての己と同じ顔をした、怒り狂った追手たちを放たれる。
真っ白に塗りつぶされた真冬の山中を逃げる、逃げる、逃げる。
やがて闇が訪れる。だが、意識を失って尚、罪は苛むことをやめない。

夢を、見る。

青白く、赤黒い、苦悶と怨嗟の声に満ち満ちた夢。
自分が築きあげてきた、血と肉と骨の山、罪の大きさを夢に見る。
いっそこのまま死んでしまえと、己を呪う。
死んで楽になるつもりかと、怨念の声が糾弾する。

……夢になかった色を見たのは、そんな地獄の果てのこと。
鉛のように重い世界から、不意に浮上する意識。
霞む視界の端に映ったのは、痛みも、生々しさも感じさせない、夕陽のようなあたたかい赤だった。


Φ―Φ―Φ―Φ―Φ―Φ―Φ―Φ―Φ―Φ―Φ―Φ―Φ―Φ―Φ―Φ―Φ―Φ―Φ


>23 ナジャ


【 エピソード・ロヴァル / Ⅰ.深碧のタリスマン / イチイの谷 / 墓地 】


(『毎年こうしておまえらと飲んで、そんで帰ってナジャとアメリを抱きしめられりゃあ、俺はそれで満足なんだ』。誕生日を祝う席で朗らかに笑う戦友のその声は、いまだ鮮やかに、鮮やかすぎて残酷なほどに、己の耳に残っている。
今の己の有様は、それが理由だ。いつもの猟装束ではなく、仲間と飲むときに羽織る鈍色の麻衣。片手にはオンコ酒の瓶。落葉を踏み鳴らして向かう先は谷の墓地。天気が悪くなる前に、奴の眠っている墓石に、奴の好きなこの銘柄を手向けてやるつもりだった。ほらよ、飲んだろ酔っ払い。さっさと家に帰ってやれ、それ以上潰れてるようならてめえのケツを蹴り上げてやるぞ。……そんな憎まれ口をたたいて己なりの哀悼を捧げよう、そう考えていたのだが。

丘の上に見知った女の後ろ姿を見つけたとき、心算は霧散した。風に揺れる見慣れた赤毛、震える華奢な背、か細い声。だが耳の良い『狩人』には聴きとれてしまう。いつもは酒場で明るい笑顔を振りまいているその女、スタンの妻ナジャは──必死に堪えながらも、嗚咽していた。自分と同じように、否、自分などとは比べ物にならないほどに、あの男の、亡き夫の死を哀惜して。
逡巡。寄り添うべきか、「ふたりきり」にしてやるべきか。迷いながら踵を返しかけたが、自分の名を呼ばれた瞬間ぴたりと止まる。胸に広がる言いようのない感覚、決して負の感情ではない理由で顔が歪む。視線を下方でさ迷わせたのち、足音を隠さずゆっくり彼女に近づくと、驚かせないよう気を付けつつ、薄い肩にそっと手を置いた。彼女の性格は知っている、泣き顔は見られたくないだろう。スタンの墓石に目を向けたまま、彼女の心が落ち着くのを待つように、隣で静かに言葉を継ぎ。)

──俺だって、こうしておまえの宝物に困りごとがないか目を光らせてる。おまえはずっと、美人なナジャに言い寄る男に片っ端から決闘を言い渡してばかりだったからな。また騒がれちゃたまらない。
……ナジャ、もうすぐ雨が降る匂いがしてる。実際、少し降ってるみたいだ。酷くなる前に、アメリのところに帰ろう。

(言いながら、持参したオンコ酒の瓶を彼女の掌へ。スタンを惜しむ人間が他にもいることは、きっと多少なりとも慰めになるだろう。)


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