匿名さん 2022-02-27 12:39:30 |
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【 オーエン 】
──…は?
( 初めから甘い物が目当てだったオーエンにとって目の前のニンゲンは目的を果たす為の都合の良い駒あるいはクッキーのオマケにくっついてきたおもちゃという認識だった。そのために晶がどんな反応をしようが何を言おうが気分を害されない限りはあまり彼の様子は気にならなかったし、そもそも気にしようとも思わなかった。しかし今はどうだろう。視線が合わさった途端、カッと瞳をめいっぱい見開き逃げるように素早く俯いた賢者の不自然な挙動を怪しく思い微かに眉間を寄せて。最初にキッチンに足を踏み入れた時はそこまで驚かなかったくせに意図しない場面で驚かれて…いや、驚く、と言うのも何かが違うと勘が告げている。だからといって他にしっくり当てはまる表現なぞ知らない。上手く言語化出来ないもどかしさを感じていたが、柔らかそうな髪の隙間から見えた彼の耳が薄紅に色付いていることに気付いた時、その答えを得る事となった。それと同時に思いもよらない反応に少しばかり頭が混乱してしまい呆然として溢れ落ちた声が早口と重なる。…何でコイツ、照れてるの。何か羞恥心を煽ってやった訳でもなし今の会話にしたって照れる要素なんて何一つとしてない、少なくともオーエンには心当たりが無かった。綺麗だと思われていることなんて知るよしもないオーエンは、糸で縫いつけられたかのようにレシピを見たまま顔を上げない晶のことを奇妙なものを見るような眼差しで見ていて。ただ、目が合ったことから彼に見られていたことは何となく分かりその理由を突き止めるべく少しの間思考の海に浸り。 )
…賢者様もこの目が欲しいの。ふふ、あげない。
( 青白い肌に色素の抜けた髪、薄くて血色の悪い唇…時に死人に喩えられるほど魔法使いのなかでも浮世離れした容貌をしているオーエンだが、そのなかでも特に人目を惹きつけるパーツはやはりこのオッドアイ、ではないだろうか。それも先天性のものではなく片方は他人から奪った目玉となれば尚更に。きっと彼はこの色違いの目に興味を惹かれたのだろう、とオーエンなりに結論付ければ顔の左半分を手で覆い琥珀を隠して。あの騎士本人も彼の能天気な性格を表したかのような明るい金眼も嫌いだが、奪ったからにはそう簡単に他人にくれてやるつもりも、ましてや本当の持ち主に返してやる気だって微塵もない。歪んだ形ではあるものの左目に少なからず価値を見出していることが言動の節々から感じ取れるだろう。もっとも指摘したところでオーエンは絶対に認めないだろうが。 )
【 ネロ・ターナー 】
( 逃げる盗っ人を捕まえようと誰よりも真っ先に飛び出していったシノだ。反対されることは恐らくないと感じていたが、力強く即答されると喜びが心中を満たす。事件の解決は当然として少年も助けたいネロと純粋に功績が目当てのシノ、両者の間にある決定的な考えの食い違いにはいまだ気付かないまま、聞き込みをすべく左右を見渡し。600年という長い人生の大半を正体がばれぬよう、人目をうかがいながら生きてきた為に直感的にアイツは駄目、こいつもきっと教えちゃくれないと道行く人々をふるいに掛けていた最中、誰かに引き止められる。多少驚きながらもふっとかかった声の方角に振り向いてみるとシワが刻まれた優しそうな垂れ目が印象的な老婆が立っていた。外見的な特徴を差し引いたとしても余所者の身を案じてくれるところに世話好きな気配がする、お世辞にも治安が良いといえない街だが彼女は信頼に値する人物と見てよさそうだ。早速少年のことを聞こうと口を開きかけて、ネロよりも先にシノが切り込んだ。ある意味口数の多くない彼らしいといえばらしいのか。とはいえ、人を探すには情報量が少ない説明に「さすがに大雑把過ぎねえ…?」と思わず隣からツッコミを入れて。現に老婆もシノの説明を聞いてピンとくるものは無かったようで難しそうに小首を捻っており、その様子にネロはどうしたものかね、と人差し指の先で頬をかき。 )
あー……今この辺を賑わせてる泥棒がいるだろ?俺達そいつに物を盗られちまって探してるんだ、アンタ居場所知らねぇか。
( ネロは考えた、いくら悪意はないとはいえ馬鹿正直に目的を打ち明けて警戒されないとは限らない、ならば盗人に襲われた哀れな被害者を装うのはどうだろう。親切な彼女の善意に漬け込むのは些か心苦しいが背に腹はかえられない。舌に乗せる直前まで己の行いを悩んでいたばかりに言葉の出始めが若干ぎこちなくなってしまうが、手配書片手にシノの説明に付け加える形で詳細な事情を話して。予想通り老婆の眉間のしわが少しだけ和らいだのを見て「大切な物なんだよ、手元に戻ってくるなら金払ったって惜しくない。」と畳み掛けるネロの表情は愁いを帯びており。もっとも事の真相を知っている者の目に息を吐くように嘘を並び立てるネロはどう映っているのか…良心の呵責と嘘がバレないか不安で気にする余裕など無い。 )
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