匿名さん 2022-02-27 12:39:30 |
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【 オーエン 】
最悪。…レシピも読めないなんて賢者様の目は飾りなの。取ってやろうか?
( 香りと味がちぐはぐなクッキーに一見分かりづらいもののオーエンは軽いショックを受けていた。色違いの瞳は指先に釘付けだったが、失敗の原因を聞き状況が飲み込めてくるにつれて深まる眉間のしわ、幼子のように口をへの字に引き結び。しかし、一度口をつけた物を突き返すのは品がない。なら捨てる?…いや、賢者の物を奪った挙句、目の前で廃棄したと北の双子に知れてみろ、うんざりする説教が待っていることは想像に難くない。逡巡の末に反省とは程遠い自己の保身を優先とした結論に至れば残りを一気に口の中に放り込んで。儚い甘さを淡々と咀嚼しながら、オーエンがキッチンに足を踏み入れた時からその動向を追い続ける灰色がかった深紫を一瞥する。無邪気な照れ笑いを見て毒気が抜けた…なんてことは無く、自業自得の憂さ晴らしの矛先は不運にもそばにいる晶へと向けられた。物憂げに口から放たれた言の葉は毒舌でも何でもない、己の落ち度を認めない捻くれ者の子供じみた八つ当たりであり、素っ気なく顔を逸らせば近くの椅子に腰掛けて。 )
ねえ、突っ立ってないで早く新しいの作って。次はちゃんと甘くなきゃ許さない。
( 新しく作り直すと聞いても一緒に手伝う、といった考えは欠片も無く。細く長い脚を組んでは人差し指でコツコツとテーブルを叩きながら偉そうに催促を。 )
【 ネロ・ターナー 】
ばっ…ちょっと待てってシノ!
( 怒りは瞬く間に人から人へと手渡され軽い恐怖を覚える程に場は魔法使いに対しての厭悪の感情で満ち溢れている。かくいうネロも一刻も早くこの場を離れなくては、と思っているものの顔を上げられない。頭上で飛び交う罵詈雑言の嵐に飲まれかけていたその時、またしても誰かの悲鳴が聞こえた為咄嗟に空を見上げて─目を見開いた。箒に跨ったシノが居たからだ。騒めく周囲を気に留めることもなくネロに向かって真っ直ぐ放たれた声は誰よりも力強く、この混沌とした場に於いては清涼感すら感じさせた。ともすれば一陣の新風のようにあっという間に空高くへ昇っていってしまったシノ、止めようと伸ばした手はあえなく空を掴み。出来れば穏便に買い物を済ませたかったが、こうなっては正体を隠すのも馬鹿らしい。となるとやる事は一つ、硬貨を行商人に押し付けるように握らせるとネロも箒に跨り空へ。向かい風に目を眇めつつ徐々にシノと距離を詰めていくなかで先頭を飛ぶ人影も見えてきて。大荷物にどんな大男かと思えば犯人は年端もいかぬ少年で、例え盗っ人だとしても傷だらけの痩せこけた横顔は痛ましく奥歯を噛む。少年の方は追手が増えたことに焦ったようで無理にスピードを上げると、曲がり角の向こうへと姿を消して。 )
ああクソ、見失った。どこ行った?
( 後を追いかけ角を曲がるが一足遅かったようで少年の姿は無く、眼下の人混みの中にもそれらしき影はどこにも見当たらない。とはいえあの大荷物だ、どこかに隠れているのではないかと思えば「まだどこかに居る筈だ、探してみよう。」と目に付いた路地裏を指差し。 )
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