匿名さん 2022-02-27 12:39:30 |
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▼晶
あ、いや…最近あんまり会わないなって思ってたので、びっくりしてしまって…。
( オーエンのどこか不服そうな口ぶりに気圧されつつも、晶は一度小さく咳払いを零す。そうして、声の調子を整えてから、雨の日のタンポポのような、しおらしい苦笑を浮かべながら、そう言った。繋いだ会話に言葉を探しながら、晶の意識は、初めにオーエンをその目に射止めた時からずっと、例の平皿に固定されていた。平皿の上にあるクッキーはもれなく全て失敗作である。そのことを伝えなければいけない。問題はその後に続く。天邪鬼である彼は、晶が嫌がれば嫌がるほど、それを実行に移してしまうだろう。晶が懸念している点はそこであった。とはいえ、これ以上の策があるわけでもない。晶は早々に諦めると、言いにくそうにもごもごと上下の唇を動かす。しかし、晶が言葉を選ぶより先に、オーエンはまるで持ってきたお菓子を自慢する子供のような滑らかな手つきでクッキーを手に取って、口を開いていた。慌てた晶の口からは「あっ」なんて短い音が漏れ出たが、彼の優美な指先がその動きを止めたのを見て、束の間の安堵を胸に落とす。オーエンは西の魔法使いを思わせる色香を持ちながら、その実、彼の口から放たれる言葉は、北の魔法使い然とした恐ろしさを含んでいた。オーエンの声を聞きながら、晶は幸せな胸やけを起こした朝のような、妙な気分に胸を押される感触がした。先程の無理な動きが祟ったのだろうか。晶はつい眉間に薄い皺を寄せながら、彼の問いかけに慎重に答える。 )
あの…実はそれ、ちょっと失敗しちゃって。オーエンの口には合わないと思うんです。
▼シノ
そうか、いい案だな。
( ネロの手に下がる紙袋に視線を落とす。彼の話に耳を傾けながら、もうそんな時期かと変わりゆく時の早さに内心驚きながら、視線をネロへと戻した。水彩を落としたような柔らかな髪を揺らしながら此方の返答を待つ彼に、シノの口許から小さな笑みが零れ出る。一度頷いて、肯定を示す言葉を並べつつ、シノはオーブンの中でじりじりと焼き目がついていくサヴァランを想像した。今にも香ばしい匂いがしてきそうな光景に、思わず喉を鳴らす。ネロが別の商品棚に離れていく後ろ姿を確認して、シノはもう一度じっくりと棚に視線を滑らせた。先程見た瓶とは、また違った形態の、海藻にも似た中身や、綿菓子のような不思議な何か、それらは、まるで海水に煽られるように、あるいは、風に撫でられるように、一定した動作を繰り返しているように見える。シノが博物館の展示物でも見るかのような調子を保ちながら、一通り、商品棚を物色し終えたところで、会計を終えて戻って来たらしいネロと合流する。横から入ってきた彼の声に、シノはその身を振り向かせると、何やら様子のおかしいネロに片眉を上げた。続けざまに放たれた彼の丁寧な説明を聞きながら、シノが、「知ってる、パエリアはぱらぱらしていてすごく上手い。また食べたいな。」と大して中身のない感想を口にしようとした時だ。ガラス越しに店内に響いた道行く誰かの悲鳴がシノの耳に入る。)
…おい、なんか外が騒がしくないか?
(/ 連日返信が遅くなり、申し訳ございません。これからも、リアルの都合により、2~4日ほど返信頻度にムラがあるかとは思いますが、無言失踪は致しませんのでご安心ください。拙いロルではありますが、これからもよろしくお願い致します。こちらは、返信不要です。)
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