名無しさん 2022-02-07 20:13:11 |
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( 窓の一つすらない閉塞的な空間では時間など計れやしない。湿気の立ち込める薄暗い空間に最低限の灯りだけが灯された地下牢、清掃などまともにされていないのか埃っぽいこの場所に押し込められて──攫われてから一体どれだけの時間が経ったのだろうと、質の悪い麻縄で後ろ手に縛られた手首が痛むのを感じつつ、外界へと馳せた思いを溜め息一つに乗せて。石造りの建物特有の肌寒さが背筋をなぞっても満足に身動きが取れない状況では暖を取る術もなく、とことん儘ならぬものだと諦念に近い不服を抱きながら、仕方なく冷たい石の壁に背中を預ける。見悶えるような寒さだが体温が移って少しでも温くなれば良しと捉えるしかない。それにしても、久方振りに家族に呼ばれたかと思えば姉の身代わりとされるなど、誰が想像出来るだろうか。今にして思えば、侍女に施された化粧も姉にはない鋭利に吊った目を幾許か和らげるものだった。だがその些細な気付きで明らかな違和感など抱けるはずもなく、急遽外せぬ私用ができた姉の代わりの穴埋めで父母との食事会へと赴いた。それも終わり、すっかりと日が落ちきって人気のない会場の外で父母が離れた隙に、青天の霹靂と形容するに相応しく現れた男に混乱する頭のまま何処ぞとも知れぬ場所へと攫われた。そして連れてこられた拠点と思しき殺風景なこの建物に蔓延る犯人の一味が姉の名前を出したことから、身代わりの役目を悟る。このような組織の考えに思考を傾けても不毛だが、本来の目標でないとはいえフレンローバウトの血を継ぐ者、その一点の価値がある故に己は監禁されるのみに留まっているのだろう、しかしメアリー・フレンローバウトの身柄のために一銭も投じられることはないと知られればどうなることか。殺されるか売り飛ばされるか、禄な未来は浮かばない。このような状況に置かれたならば、いくら英才教育を施されている貴族子女とて恥も気高さもかなぐり捨てて泣き叫んでも許されるだろうに澄ました面持ちを保つのは、諦念が一匙加えられたある意味の楽しさを環境ではなく状況に覚えているからである。そっと視線を巡らせれば、立ち並ぶ無慈悲な牢越しに見張りとして待機しているのであろう男が映る。彼女を攫った者と同一人物でもあるのだが、同じ空間に脅威が滞在しているにも関わらず彼女は怖がる素振りすらも見せない。それどころか、口を開くやいなや怯えも緊迫も感じられない平常の声音で臆せず語り掛けて。その吊り上がった口元は彼にどう映るのだろうか。 )
ねぇそこの素敵なアナタ。見張り役なのでしょうけれどただ居るだけだなんて退屈ではなくて?わたくしと世間話でもいかが?
( / お待たせしました。初回絡み文の方を投下させていただきます。初回のため確定が多くなってしまいましたが、不都合等ありましたら仰ってください。)
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