狐の面 2022-02-07 12:47:52 |
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揺れる窓の向こうは、煌びやかな都心からは離れていて鬱蒼と茂る竹林だった。
さらさらと葉の鳴る音が少しだけ開けた窓から聞こえてくる。
立派な門構えの大きな日本家屋、整えられた庭は時折、鯉が池の中で飛び跳ねる。少し離れた所にある蔵が少し怖かった。
女中に案内され、表と見違えるほどの立派な中庭に面した縁側を歩き奥の部屋へと通される。
現代では少し似つかわしくない御簾の掛けられた大きな部屋、鼻に掛かる季節外れの椿の香りが印象的だった。
畳の真ん中、座布団とお茶を用意されて1人にさせられると暫くしてから御簾の向こうで何かが動く音がした。
小さな声が聞こえたような気もしたが、緊張している自分の心臓の音が煩くて聞き取れない。
すると、流れるような音をたてながら御簾が巻かれ上がっていく。その向こう側、上座に鎮座するのはだらし無く和服を着崩した不気味な程に整った顔を持つ男だった。
「 狐の屋敷へようこそ 」
視界の隅であるはずのない彼岸花が風に揺れていた。
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