使用人A 2021-11-08 23:48:34 |
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>イヴァン
( 流れるように手の甲へ落とされた口付けに今度は手を引くことなく、それこそ目を閉じればどこかの貴族の令嬢同然に立ち上がると導かれるまま椅子へ腰掛け。膝に乗せたジャケットの染みは薬品のお陰か薄くなっている。記憶は脳内で糸のように絡み合ったまま、回答に辿り着けず、カメラのシャッターを落とすようにパチリと瞼を数度落としては・・・この方じゃない、この情報ではない・・・差し出されたハンカチへ「ありがとうございます」と在り来りな礼とともに手を伸ばし・・・
「・・・随分と情熱的なお言葉ですこと。ボークラーク様がどんなに邪険に扱おうと、周りから人が絶えないことこそ貴方様の評価でございましょう?」
耳元で囁かれた言葉に、声色に再びぱちりと瞬きをすれば、蓋を開けるように入れ込まれた記憶が溢れ出す。ボークラーク家、そうだ・・・ご主人様が調べてらしたはず。子供の誘拐事件をはじめ、この人の周りでは人がとてもよく消えると・・・それは、家族であっても。受け取ったハンカチに描かれた紋章は確かに記憶にあった。
「他の貴族ではなく、私はボークラーク様に興味がありましたから。他の貴族の方々でしたら、まず使用人の言葉になど返事もくださいませんよ」
視線を下げ、紋章を見すえたまま少し考え込むように目を閉じる。さてどうしよう、主人のターゲットに接触した手前、気取られる訳にもいかない。とはいえ、言い逃げ文句も浮かばないのだから困ってしまう。そっとハンカチの紋章を指で撫でては、遠いパーティーの喧騒の中から少しでも主人や仲間たちの声が聞こえはしないかと・・・そうすれば安心出来るのに )
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