使用人A 2021-11-08 23:48:34 |
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>イヴァン
( それは確かに笑みだった、それも随分と柔らかく毒気がないもの。毛布を貴族に拾わせてしまったこと、伸ばされた手を拒絶したこと、近付いた距離に心臓が軋むような音を立てて脈を打つ。主人は凄い人達だ、仲間もすごい、相手の素性を探ろうと言葉を選ぶことは、こんなにも呼吸が難しい程に緊張するものなのか。しかし、こんな使用人風情にも分かることはある・・・それは、少なくともこの男は使用人だからという理由で人間を下に見ることはしないということ。大人しくジャケットに手をかけた男の行動を、何気なく見ていただけ・・・なのだが、脱ぎかけたジャケットの片一方が不自然に沈んで見えた。何か入っていたのだろう、それを何気なくしまったらしい男の手からジャケットを受け取ると、
「お預かりいたします。少々お時間をいただいてしまいますが・・・」
何処かに座っていて貰おうと思っても、簡素な木製の椅子かベッドしかない部屋だ。困ったように眉を下げて、見た目だけは申し訳なさそうな使用人の顔をする。ジャケットが僅かとはいえ傾くようなものを夜会の最中に外ポケットに入れるはずもない。誰かから急遽渡されたか、拾ったか、いやそれよりも何なのかが問題だ。思考に没頭したが故に一瞬遅れた反応を隠すよう、棚から染み抜きの道具を取り出そうと男に背を向けて、
「それにしても、ボークラーク様は随分と女性のお知り合いが多いようですね・・・男性のお知り合いなんて、御一方くらいでしたでしょう?」
もちろん、これはブラフ。薄暗い部屋の中でなら表情までは読み取られないだろう、主人のように上手くは出来ずとも状況的には上々だ )
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