主になれなかったOL 2021-10-30 19:42:46 |
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(ハンカチが頬に触れるより先に、雨が指先から落ちていくように、目の前の人形のような男の人の髪を伝った水がぽたりとハンカチに落ちた。じわりと冷たい水が指先に触れれば、不気味ささえも背筋に染みる。ひゅっ____耳元で風の音がして、反射的に動きを止めながら視線だけを動かせば近くに寄ってより分かる冷たい温度。これは本物だ。本物の刀なのだろう。そしてそれを持ち上げたその手はきっとこの刀を握ることに慣れているのだろう。素人でもそれくらいのことは分かった。ゆっくりと長い睫毛に縁取られた瞼が持ち上がり、こちらを睨むように見上げた瞳には夜空に三日月が浮かんでいる。もし、この鞘から武器が抜かれていたならば命はなかったに違いない…「___風邪をひいてしまいます。知らない人の心配が出来るほど出来た人間ではありませんが、それでも雨に打たれて眠る人を放置するのは好みません」、冷たい恐怖を飲み込むようにハンカチをぎゅっと握りしめて膝を折るようにして目線を合わせる。いなくなれと言われても、酷く傷んだ声まで聞いて立ち去れるほど強くはない…首に掠めた刀の鞘が少しずつ熱を持つように感じるのは寒気が生み出す幻だろうか…)
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