常連さん 2021-10-17 16:20:09 |
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(彼の声で、はっと現実に引き戻される。いつの間にやら、絵具たちの持つなんとも形容しがたい魅力に惹き込まれてしまっていたようだ。“踏まないで”その言葉によれば、この画材たちはきっとそれ程大切なもの、若しくは価値の高いものなのだろう。うん、なんて小さく頷けば、一度踏み出そうとした足を止めて慎重に彼の正面へ向かう。此処へ来るまでは混乱やら状況の整理やらで理解が追いついていなかったため、そこに座って初めてちゃんと見た彼の顔。顔半分が黒マスクで覆われたその表情を読み取ることは非常に困難だが、じっと此方を見つめていた瞳からはどこか安心感を覚えてしまう。数秒の沈黙の後、名前を問われたが直ぐに答えることが出来なかった。長らく呼ばれることも、口にすることもなかった名前。「ほ…たる、楠木、蛍」若干たどたどしくありつつも、はっきりとそう名乗った)
◇◇◇
(はぁ。再び溜息が零れそうになるのをぐっと呑み込み、改めて目の前の彼に向き直る。……読めない。教師という職について早十数年、これまで数多の生徒たちと接するにつれ、徐々にその生徒の考えが自然と読めるようになっていた。所詮子供。感情のメカニズムさえ分かってしまえばその先を推測することなんて容易いもの_の筈だったのだが。どうも目の前の彼相手だと上手くいかない。ただ髪を染め直すよう注意しただけなのに、どうして自分好みの髪色の話になる。なんの脈略もない展開、なかなか握れない話の主導権。こうして自分のリズムを崩されるとどうしても本来の性格が露見してしまいそうだ。面倒くさい。全て投げ出して帰りたい。「…好き嫌いは関係ないだろ」ほんの数秒の葛藤の後、教師としての理性が失われる前に彼の言葉を一蹴し、一週間猶予をあげるからそれまでに染め直してくるように、という旨も伝えておく。この流れで成績の話に持っていって_はやく面談も終わらせてしまおうと)
(/いえいえ、お帰りなさいませ……!此方も大きなタスクが一つ片付いたので、返信速度は上がると思います…!)
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