常連さん 2021-10-17 16:20:09 |
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(靴を脱げと指示したは良いものの玄関先で躊躇する彼。やはり本心では誘拐犯に対する恐怖と、逃げ出してしまいたい衝動に駆られているのではないか。ふとそんな考えが頭を過ぎったが、次の瞬間慌てて自身の背中を追い掛けてきたその姿を見て、少しばかり安堵してしまった。ぼんやりと灯りの灯った部屋で、彼の視線は自分をいつ危険に晒すか分からない犯罪者ではなく、床に散らばった画材に注がれていて。やはり、変わった子だ。しかしその事実に、確かに救われている自分がいる。「それ全部、踏まないで」絵の具は服に付いたら中々取れないから、とそこまで言えば良いのだが、何せ他人と個人的な会話をする事自体久々だったため、言葉足らずな素っ気ない言い方になってしまい。ただ、今の自分には言葉選びに気を配る程の余裕もなく、獣道のように画材が避けられた部分を通るよう指示し、部屋の真ん中に置かれたちゃぶ台の側に腰を下ろすと、正面に座るよう視線で促して。何から話すべきか。そもそも何か話すべきなのだろうか。余計に混乱を招いてしまうかもしれないのに。躊躇した後、向かい合った彼に重々しく口を開いて)
……君、名前は?
◆◆◆
(心底理解出来ない出来事に直面した時、人はまさしくあんな反応をするのだろう。思わず漏れてしまったような先生の気の抜けた声で、数秒前の失言に気が付き思わず視線が泳ぐ。あぁ、えっと、だから……上手い言い訳を脳内で探すうち、先生の方から本題を切り出してくれたため、ほっと胸を撫で下ろす。やはり呼び出しの内容は予見していた通りで「えー……似合ってないすかね?俺結構気に入ってんだけどなぁ。これが友達からもまあまあ好評で」ぺらぺらと饒舌に言葉を紡ぐことも彼を前にすればもはや厄介な癖で、勢いのままに、明かしたくない腹の中まで曝け出してしまいそうになる。しかし何より、出会った当初は黒だった己の髪色を記憶してくれていた事が嬉しい。尤も、生徒が突然茶髪に染めて気付かない担任教師がどこにいる、と言われれば反論のしようもないが。「先生が黒が好きって言うなら戻そっかな。……って答えは駄目っすか。さすがに。はは」乾いた笑い声を漏らしながら、しかし相手の様子を窺い虎視眈々と作戦を練る二つの眼は笑っておらず)
(/長らくお返事お待たせしてしまい大変申し訳ありません…!仕事が片付いたので、以後比較的ペース良く返せると思います…!)
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