常連さん 2021-10-17 16:20:09 |
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(先刻、踏切に飛び込もうとする彼の姿を見て、考えるより先に身体が動いていた。彼は一時的に一命を取り留めたかもしれないが、どうせ彼を殺して自分も死ぬつもりだった。一緒に死んでくれる人が欲しかった。そんなエゴに無理矢理付き合わせただけなのに。時間に換算してほんの数秒の間にそんな考えが駆け巡る。しかし、此方を見上げる邪気のない表情を前にすると、それら全て口に出してはいけない気がした。「………………そっか」不自然な程の沈黙の後、必死に絞り出した答えがそれだった。答えにすらなっていないが、今多くを語ると襤褸が出ると思った。「…とりあえず靴、脱いで」一先ず立ち話はやめて部屋へ上がるように促す。カーテンまできっちり閉められた薄暗い部屋には一切光がなく、彼より先に足を踏み入れて仄かな明かりを点ける。もはや彼を道連れにしてこの世を去るという決意は自身の中で揺らいでしまっていて)
◆◆◆
(扉が開かれた先に立っていたのは、予想通り彼だった。何やら驚いた様子の彼が時計を確認する間も、正当な理由で二人きりになれる喜びを隠し切れず頬は緩んで。促されるまま部屋の中へ足を運び後ろ手で扉を閉め、先生から指示を受けるなり「あーい」と気の抜けた返事を。用意された向かい合う机の片方にはパソコンが置いてあり、つい先程まで此処で作業中だったのだろうかと思いを巡らせながら、反対側の空席へ大人しく腰を下ろす。用件は予想出来たものの此方から言ってしまえば、喜んで叱られに来た可笑しな生徒だと思われかねない。「で、せんせ。今日はなんで俺のこと呼んでくれたんすか?」警戒されないようにあくまで冷静な声色と表情を意識しつつ問い掛けるが、その問い方すら生徒として不自然である事には気が回らず)
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