怪しいひと 2021-09-27 23:06:20 |
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…ほんまに、痛ない…?
( 人の歯形にくっきりと内出血を起こした腕は痛々しい程赤く映り、とてもじゃないが一息付ける気になれない。自身を庇ったが故に負傷した事への罪の意識を拭えず寄せられた眉は解ける事はなく。それでも彼なりの配慮から不器用ながらにも頭部を撫でる優しく大きな掌に徐々に身体の強張りは解れ、緊張から野兎のように駆け足であった心拍も落ち着きを取り戻し。徐に顔を上げて掌の隙間から布面の墨染へ控えめに視線を向けて、表情を確認しようと。喜怒哀楽の何れにも当て嵌まらぬ模様に、不安よりも安堵して今度はその胴体にぎゅっと抱き着き。浴衣に顔を埋めて数秒、未だに信じられぬ光景であったがあの通行人が最後に放った言葉、名残惜しいと言わんばかりに消えて行った映像は脳裏に焼き付いていて「あの人…林檎飴ちゃん、食べたい顔しとった、」憶測に過ぎ無いかもしれないが。怖いような切ないようなそんな感情に残された林檎飴を握る掌に力が篭り。「お家?」ぱちりと瞳が開く。寄せていた眉もどこへやら、思わぬ提案に再度顔を上げた。此処には屋台と得体の知れぬ通行人しか居ないと思っていたが彼の家があるとは。縁台から離れるのは些か不安ではあるが、彼から離れ背後へと振り返るも帰路は見当たらず在るのは先程と変わらぬ光景で。相変わらず店主は現れない。また襲われるよりも、いや傷の手当てをするために、最善が何かも分からないが彼に着いて行こうと小さな脳を捻りながら導き出した答えに首を縦に振り。 )
うん、おにぃのお家連れてってくれますか。
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