怪しいひと 2021-09-27 23:06:20 |
通報 |
──!!!
( 突如訪れた最悪は一瞬の間、視界を暗転し硬く瞑った瞳の奥で”彼”が己の腕に噛み付く恐ろしい予測が脳内を迅速に駆け巡る。ぶわっと噴き出た冷汗は額に滲み、跳ね上がる動悸に胸痛さえ感じて。命の危機、前にも似た光景を目にした気がする。次に訪れた衝撃は予測とは異なるもので強い引力で背後へと引っ張られると反射的に瞳は開かれ、鮮血の如く赤い瞳はその衝撃的な光景を目の当たりにし瞳孔は大きく開かれ。己の呼び掛けにあれ程まで興味を示さなかった通行人がまるで野生の獣のように彼の腕に齧り付いているではないか。「……っ」声にならぬ声、表現するにはふさわしい息の詰まった音をか細く漏らして数秒にも至らぬ漠然たした静止画の中でその光景に囚われ。林檎飴の落ちる音に肩が僅かに震え、二度目の瞬きを。そこには初めて感情を表したような単語を最後に消えゆく人の姿があり。あまりにも現実離れした出来事にオーバーショートしていた身体は無意識に固まっていて、緊迫からくる短い呼吸を繰り返していていたが、不意に降りかかる見知った声色に一点を見詰めていた瞳は墨染へ重なり、「河原……!」すっかり抜けていたと思われる腰は思いの外丈夫だったようで、無意識に腹部を押さえる彼の浴衣を掴んでいた手を離し、負傷しているであろう腕を汗ばんだ両手で取って柔らかく抱擁し、傷口にぴたっと熱くなった己の頬を当てがい。微かに震えた声で「唄はなんともあらへん、おにぃ痛いね。唄が今いたいいのいたいの飛んでするさかいね…」握る林檎飴は落ちてヒビの入った片割れを映すばかり )
トピック検索 |