怪しいひと 2021-09-27 23:06:20 |
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ありがとう、で良いのかな。
( 屈まねば目も合わせられないほど小さな背丈、彼女の口端が柔らかに緩むのを目にすれば、自然と己の胸中に暖かなものが滲んでゆく。彼女の告げる小川はきっと、己の何倍も魅力的な産物なのだろうけれども、「そっか」気づけば小さな声で肯定を溢していて。光を受けて艶めく飴の先と屋台骨、彼女がその丸い頭を左右に降って確認しているのを良いことに己の名を反芻する。河原、河原……うん、なんだか良いものに思えてきた。そうやって、多少浮かれてしまったのが仇となった──説明途中で切り替えがうまく行かなかった、というのは恐らく言い訳になるまい。男が明らかな" 危害 "を彼女に加えようとしていることに、今の今まで気付けなかったのだ。男はその歯を唾液で湿らせ、細い肩に歯を突き立てて食い破ろうと、いや、「!!」強欲なことだ。男は躊躇いなく、飴ごと彼女を喰らおうとしていた。悲鳴を上げて飴を庇う彼女の腹に咄嗟に自身の腕を回し、もう片方を男の開けた口に押し当てる。その弾みに片手にしていた飴は自身の手を抜けて、多少離れた位置でコトッと音を立てた。左腕の袖はするりと肘に絡み付きながら緩く波打ち、わざと噛ませた左腕から久方ぶりの痛覚が伝って、ほんの僅かに墨染が揺らぎ。「ふ、」喰い付いた男の口腔がいまだ見えぬ内に、塵を投げ捨てるかのごとく腕を振る。恨めしそうに林檎飴を見つめた男の最後の顔が、彼女には見えただろうか?「あ」名残惜しい、と。そう言わんばかりに一言だけ発して、彼はその姿をホロホロと崩していく。ほんの短い間靄となってとどまった" 彼 "は、そうしてもうどこにもいなくなった。「……」ため息と見分けのつかない一息を入れる。なんとはなしに襲撃に対応した左腕に視線を移せば、その瞳にくっきりとした赤い歯型を見つけ「…え?」耳に届くか届かないかの声で小さく驚愕し。拍子に近くの小さな温もりに気がついたなら、取り繕うように配慮の声をかけて )……大丈夫?
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