鬼娘 2021-09-05 10:06:47 |
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(夫婦仲良く同じ委員に任命された後、余っていたクラスメイトにもそれぞれ委員と係が割り当てられ、担任が「それじゃあ1年間よろしくな!」と暑苦しい笑顔で締め括ったところで、タイミング良く1限目の終了を知らせるチャイムが鳴り響き、休憩時間が訪れた。再び教室内が私語で溢れかえる。
2限目の世界史の授業が始まるのは10分後。そこで次の授業が始まるまでの間、ぼんやりと窓の外を眺めている旦那様の、そのミステリアスな横顔を見詰めるのに専念することにした。ゼロ距離で。といっても、その殆どが手触りのよさそうな髪に覆われていて見えないけれど。
すると、前触れもなく此方を振り向いた旦那様と、思いがけず超絶至近距離で見詰め合う形になってしまった。
──チューされる……!!!
咄嗟に脳裏を駆け巡る。
──これチューされるやつじゃ…………!!!
間違いない、絶対にチューされる。こんな至近距離ですることといったら最早チュー以外に考えられなかった。でも何故今。クラスメイトもいるこの教室で…?旦那様の表情から思惑を読み取ろうとしても、長い前髪と瓶底眼鏡の奥に全て隠れてしまっていて、その考えは計り知れない。極度の恥ずかしがりであるはずの旦那様が、突然大胆な行動に出ようとしているワケとは一体。頭のなかでぐるぐると考えを巡らせ、結論として思い出したのは大好きな少女漫画のワンシーンだった。
学園一のモテモテ俺様王子系男子が目の前のクラスメイトたちに、「こいつ、俺のだから。」と牽制しながらヒロインの肩を抱き寄せ、強引に口付けをするシーン。もしかして旦那様も、それが狙いなのではなかろうか。文武両道、才色兼備、まさに高嶺の花と語るに相応しいみやびと同じ委員に就きたい者から向けられる、色目や妬みの視線を感じ取った恥ずかしがりな旦那様の苦肉の策。悩んだ末ここで恥ずかしがっている場合ではないとの考えに至り、今、思いきった行動に出ようとしているのかもしれない。
そうだ。クラスメイトに牽制する気なのだ。リアル「こいつ、俺のだから。」をするのだ。
一気に頬が紅潮し、心臓が早鐘を打ち始める。ドッドッドッ……──)
…は、っ……はい………!
(今からチューをするのだと覚悟を決め、ようやく声を絞り出す。旦那様がお望みなら、みやびはいくらでも…。そっと瞼を伏せ、つややかな唇をおずおずと差し出して、その時を大人しく待ち)
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