△ 2021-03-29 01:55:20 |
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(彼と別れるときこっそり貰った箱を懐から出す。煙草、タバコの葉を加工して作られる一種の娯楽品だ。その有毒性は古くから知られているのに未だ喫煙している者は少なくはない。丁度相棒は外に見回りに出ている。今日は遅くなると言っていたからまだ帰ってこないはずだ。未成年の喫煙は法律で禁止されている、こういう所はちゃんとする相棒の前では絶対に出来ない行為だ。秘密のことをするためにも事務所の屋上に出てくると床に座り込んで箱から一本煙草を取り出す。あの時彼がやっていたように煙草を咥えて軽く息を吸いながら先端に火をつけた。上手く着火出来た煙草の先からは煙があがり、あの時と同じ匂いを感じた。そのまま軽く吸い込んで煙を吐く。今まであまり感じることのないような苦みとほんのり甘い風味が口に広がって吐き出した煙は空気と混ざって消えていく。もう一回とその味を確かめるように深く息を吸ったら今度は肺の中まで煙が入ってしまってごほごほと激しくむせた。舌に乗ったままの苦みといいやっぱりこんなものを吸うなんてよっぽどの物好きだ。煙草に含まれるニコチンは身体を蝕むとともに脳の一部を刺激してリラックス作用をもたらすともいわれている。自分の気持ちに蓋をしてこれに頼らなければならないほど彼は孤独に追い詰められていたのだろう。その原因が自分だと考えればなんとも言えない気持ちを抱えてしまう。考え込みながら煙草を咥え煙を吐き出す動作を続けていればいつのまにか手に持っていた煙草はかなり短くなっていた。案外人のことを言えない体質かもしれない。まったりとした思考の中、先端を陶器に押し付け火を消すと無意識に二本目に手が伸びかける。だが突如影がかかり強くその手首を握られ制止がかかった。見上げるとこちらの相棒が凄い形相で見下ろしていて「あ」と短い声が漏れる。深く眉間に刻まれた皺を見る限り今回のお説教は長そうだと何処か他人事のように考える一方で怒ってもらえるのも相手が居るからこそだなと変な感想を抱きながら煙草から手を離した。)
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