△ 2021-03-29 01:55:20 |
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「とある文豪が『love you』を『月が綺麗ですね』と訳した話は知っているかい?実際に彼がそれを言った文献は残っておらずあくまで逸話や都市伝説という扱いだけど何とも興味深い話だ。彼に限らず古来から日本では想いを伝えるために和歌や短歌を詠んだり文を綴ったりしたそうだけど直接的に気持ちを表現するよりも何かに例えたり情景で描写することが好まれる傾向にあったらしい。つまり同じ好きという意味でもその人によって表現が違うという事だね。だが人が人に向ける感情は分類分けは出来ても統一なものではないと思えば至極真っ当なことのようにも思える。例えば同じ好ましいと思う気持ちでもコーヒーとバイクに向ける物は違うし彼女と君に向ける想いも違う。そのニュアンスや重みといえばいいのかな、そういった所を表すのが言葉という訳だ。更に言えば他人の心情や想いなんかは外見や触診では判断がつかないことが大半で相互理解を図るにはいかに自分の感情を上手く言語化するというプロセスを踏む必要がある。僕達のドライバーのようにお互いの思考や感情が共有できるのなら話は別だけど。そこで君への気持ちを僕も言語化してみようと考えたのだけどこれが案外難しい事に気が付いたんだ。相棒としての感情としては信頼、恋人としては愛情などが主なものだろうけど君の探偵としてのスキルには尊敬もしているし甘い所には時として憂いの感情を抱いている。全幅の信頼を置いているつもりだけど女性の依頼人と仲睦まじい様子を見れば嫉妬してしまうし独占欲や執着心を君に向けているのも自覚しているつもりだ。そう思うと君に向ける気持ちというものは好きや愛してるだけでは表現しきれないことになるけど、だからといって適切な言葉が思い浮かばないのはもどかしくて仕方ない。そこで知識の海に潜って見つけたのがさっきの『月が綺麗ですね』という言葉だ。直接感情をストレートに伝える必要はなくそこに含まれる意味だけを伝えればいい。そして僕にあてはめて考えた時、真っ先に浮かんだ言葉は既に君に伝えてあったんだ。僕と君は二人で一つ、君の好ましいと思っている点も甘い所も含めて僕の相棒でこれから先もずっと隣にいる大切な人だ。そして向かう先が極楽浄土だろうと地獄の底だろうとやることは変わらない。君のいく場所が僕の居る場所で、君が命尽きる時が僕が終わる時だ。だからね、何処までも僕と相乗りしてくれるかい?」
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