△ 2021-03-29 01:55:20 |
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(嫌な夢を見た。どんな夢だったかはっきりと覚えていないけど恐ろしく怖かったことだけは覚えている。瞼を開くと見慣れた薄暗い部屋。カーテンの隙間から差し込む光がない辺りまだ深夜なのだろう。目の前には彼が規則正しい寝息を立てながら眠っている。彼は基本的に一度寝ると朝までぐっすりなタイプだ。眠りが深いのか状況を確認するために身動ぎをして物を立てても起きる気配はない。自分ももう一度眠ろうと目を閉じてみるが変に頭が冴えてしまったようで眠れそうにない。静かで暗い部屋にいると闇に呑み込まれていくような気がして、だけども寝てしまったらまたあの夢の続きを見てしまいそうで宙ぶらりんなまま寝返りを打つ。明日は依頼人が訪れる予定があると言っていた。主に対応するのは彼と所長だが必要であれば自分の出番もあるだろう。だから早く寝なければと焦れば焦るほどに余計眠れなくなって小さく溜息が零れた。こうしていても埒が明かなそうで水でも飲んで気持ちを切り替えようとそっとベットを抜け出そうとする。幸い今日は眠っている間に腕は解かれていたようで脱出は容易だ。音を立てないように起き上がってキッチンに向かった。コップに水を注いで一口飲めばその冷たさが体に染みわたって幾らか胸の底に沈みこんでいた澱みが晴れた気がする。夢はその人の記憶を整理する最中に出来た不可思議な映像らしいがあの光景を自分はどこかで見て体験したのだろうか。こうやってどんなに考えても答えが分からない問いは嫌いだ。暗然たる気持ちを抱えながらベット脇に戻ってくるがまだ眠れそうな心境ではない。ならばいっそ寝るのを諦めて夢について検索をして気を紛らわせようと考えた途端、布団の中から手が伸びてきて腕を掴まれる。そのまま強く引っ張られると抵抗の術もなくベットに引きずり込まれた。こんな状況でそんなことをする人物は一人しかいない。突然のことに困惑する中、視線を向けて彼の名前を呼んでみればぼんやりとした目がこちらを向く。まだ微睡みの中にいるようなそんな感じだ。一方で掴む手の力は強く相手がもぞもぞと動いて背中に腕を回されたかと思えば強く引き寄せられ腕の中に納まる形になる。ずっと布団に入っていた相手の身体は暖かく慣れ親しんだ匂いがする。無意識に身体の力が抜けて更にその背中を撫でられると心地よさに包まれてふわりと意識が揺らぐ。さきほどまであんなに目が冴えていたのにその温かさに一気に眠気がやってきた。目の前の首元に擦り寄れば更に匂いが強くなる。がっしりとした腕に包まれて信頼のおける相棒に”守られている”とそう実感できると胸に引っかかっていた不安や懸念が溶けていくのが分かる。彼の名前を呼ぶ、返事はないけれど抱かれた腕に力が籠るのを感じれば口端が緩む。ふわふわと心地の良い温もりの中「おやすみ」と小さく囁いて瞼を閉じた。もう悪い夢は見なかった)
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