△ 2021-03-29 01:55:20 |
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首筋に刺された薬の効果がまだ残っているようで全身が気怠い。
もう何もしたくなくなって沈んでいくのが心地良い。
運ばれていた車から降りて目の前の大きな建物を見上げる。あの夜に抜け出した場所よりも周りと溶け込んでいて尚且つ厳重な印象を受けた。
一度脱走した身、警備や拘束は厳しくここに踏み込んでしまえばもう二度と自由に外を出歩くことはできないだろう。
引きずられるまま中へと入る。
周りの色が白と黒で統一された空間で沢山のゲートのようなものを抜けその度に周りの空気は冷たく無機質なものに感じられた。
たどり着いたのは最上階。中央部に用意された部屋は研究に必要なもの以外何も置かれていない。部屋というよりもゲージといった表現の方が近いかもしれない。そしてそこで飼われる実験動物が自分なのだ。
そんな扉の前、ふと外の方に視線をやれば小さな窓から街の象徴である風車に紫の光が灯って___
気づけば周りの関係者を押し退けて走り出していた。
突然のことに一瞬彼らは呆然とするもすぐに追いかけてくる。
その手には見慣れたメモリ。対する僕は生身で対抗する術はない。
ここから逃げ出せるとは思っていない。だけども紫の光を見た途端この体があるべき居場所を思い出した。
目指す先はガラス張りの通路、そこまで駆けだせば地面を踏み込んで躊躇なく空へ飛んだ。
割れたガラスが光を反射してキラキラと光る。飛び散る赤がやけに奇麗だった。
空中にある体は地球の重力に引っ張られて堕ちていく。
組織の人たちが何やら怒鳴ったり喚いているがざまあみろとさえ思った。
この体を好きに使っていいのは彼だけだ。
他の誰かに好き勝手されるのは許せない。
地球に還っていく最中、一際大きな風が吹いた。
その風に彼の気配を感じると無意識に笑みを浮かべた。
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