吸血鬼 2021-03-16 10:45:12 |
通報 |
──…
(既に事切れた女性の首筋に噛み付いて血を啜って居れば不意に聞こえた声と此方に銃を向ける音。聞き慣れた、それでいて普段とは違い苛立ちを露わにした低い声に顔を上げると月の光に照らされた彼の姿があった。紅く染まった眸で、月を背負ったその姿をじっと見つめる。まさか此処で遭遇するとは思わなかったものの、此方は暗がりになっていて相手からは自分の姿までは見えていない筈。なによりも恐れていた事の筈なのに、声さえ上げなければ自分だと気付かれる事はないだろうと妙に冷静な自分がいて、血の滴る口元を手で拭うと徐に女性を抱き支えていた手を離して。満月の晩であっても理性を失ってはおらず、反撃をするよりも自分だと気付かれる事なくこの場を離れる方が得策だと考えた結果のこと。支えを失ったその身体は地面に崩れ、彼がそれに気を取られた一瞬を突き、素早く路地の奥の暗がりへと身を溶け込ませるとその場を離れて。しかし渇きはまだ満たされてはいない。この姿ではコートを着ていても意味を成さないため、別の場所で早々に獲物を捕まえようと暗い路地裏を歩きながら西へと足を進めて。)
トピック検索 |