吸血鬼 2021-03-16 10:45:12 |
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…テオは辛い経験を幾つも乗り越えて、此処に居るんだね。
(彼が涙を堪えていた事には、熱を浮かべた今は気づく事はなかった。軽めのカクテルを、とマスターに頼めば程なくしてベリーニが差し出され、それを手元に引き寄せる。婚約者を失い大きな喪失感を絶望を抱えた相手は、時に辛い思いをしながらもハンターとして吸血鬼の前に立ち続けている訳で、その事に素直な尊敬の念を抱いた。一方で彼とこのBarで時間を共にするほどに、楽しく心穏やかな時間と引き換えに、自分自身は破滅へと向かっている気がしてしまうのは、気の所為では無いはずで。吸血鬼として長く生きていくには、人間との接触を極力減らすことが重要だとは分かっていた。人間に思い入れを持ち過ぎるべきではない事も。分かった上でこの逢瀬を続けているのだから、この短期間で随分と脇が甘くなった様だと思いながらカクテルをひと口口に含んで。自分が吸血鬼だと知ったら、彼はどんな反応を見せるのだろうか。満月が近い夜、酒を煽っても消えない渇きを喉元に感じたまま、ぼんやりと考えて。)
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