吸血鬼 2021-03-16 10:45:12 |
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(吸血鬼に婚約者を殺された、と話す彼の言葉聞いても、それが罪悪感として吸血中に首を擡げる事は無かった。暗い路地裏に連れ込んだ女性の首筋に鋭い牙を突き立てると彼女の小さな悲鳴が聞こえたが、血を啜るうちに程なくしてその身体から力が抜ける。その身体を抱き止めるようにして支え、やがて飢えが満たされて彼女から手を離すと、既に事切れた身体は力なく地面に崩れ落ちて。それを紅く染まった瞳で見下ろしつつ口許を染めた血をコートに着けないよう、律儀にハンカチで口を拭う、高級なディナーを食べ終えた時のように、自然な動作で。そうして女性の遺体はそのままに、軽快な足取りでまた夜の闇に紛れる。大通りは変わらず、ネオンの明かりが輝き陽気な音楽が流れ、その中をゆったりと歩きながら身体が満たされた満足感に浸るのだった。
翌日、目覚めた時も怠さはなく、久しぶりのすっきりとした目覚めに心地良さを感じながらまた夜になっていつものBarへと足を伸ばした。日付を跨ごうという時間帯、3杯目のカクテルを頼んでも彼が姿を見せる気配は無い。昨晩の一件で忙しくしているのだろうかと、何処か他人事のように考えながら、カーディナルのカシスの香りを楽しみつつ喉に流し込んで。)
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