吸血鬼 2021-03-16 10:45:12 |
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(想いを寄せる彼の血の匂いに当てられた所為か、その夜の衝動は酷いもので彼の元を離れてから2人の女性を襲う事となった。漸く渇きが満たされた頃には、血の気を失い力なく目を伏せた女性の亡骸を腕に抱いていて、その姿が一瞬彼と重なる。彼を守るために咄嗟に同族に手を掛けた事は言いようの無い罪悪感を生んでいたが、同時にそこまでして守りたかった彼自身が、最も守りたがっている人間を代わりに容赦なく喰らう自分は酷く歪な物のように感じてしまう。どちらにもなりきれない自分の行動を思い返し何をしているんだ、と溜息を吐けば、女性を路地裏の壁に凭れるようにして寝かせるとその場を離れその日は自宅へと戻り。
入院しているであろう彼の元に見舞いに行くこともできないまま、数日の間は部屋に籠っていた。ハンターの武器でしか命を奪えない吸血鬼は、同族同士獲物を巡って争う事があったとしても殺し合う事はない。誰にも見られて居ないとはいえ、同族を殺してしまった罪悪感と、彼と自分とでは守りたい物が全く違うという分かりきっていた事実も今更になって気持ちを沈ませた。思いの外その夜の一件は重く心にのしかかり、気力を奪っているようだった。体調は大丈夫だろうか、そろそろ退院できる頃だろうか、と昼夜彼の事を思うもののBarに足を運ぶ気は起きず、一度夜に彼の家の近くまで足を伸ばしたが、家には戻っていないようで灯りは確認出来なかった。その夜もBarには行かず、自室でグラスに注いだワインとタバコだけを口にしていて。)
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