吸血鬼 2021-03-16 10:45:12 |
通報 |
(会う事を避けていた相手、扉を開けてカウンターにその姿が無いことに寂しさを感じたのと同時に僅かな安堵も感じていた。久々の来店になった事をマスターに詫びつついつもの席に腰をおろしカクテルを頼む。1ヶ月も来なかったのだから、彼も店に来なくなっていて当然だと思いつつも隣の席が空いている事に喪失感も感じていて。
何処かで相手が来るのを待ちながら、気付けば東の空が僅かに青く色付く頃。煙草を灰皿に押し付けてようやく席を立つと支払いを済ませて店を出た。朝方の冷えた空気の中に血の匂いが漂っていて視線を上げれば、少し先に見慣れたコートの後ろ姿。暗い茶色の髪もすらりとした長身にも見覚えがあり、なによりもこの血の匂いを知っていた。頬に絆創膏を貼っていた彼の血の匂いだ。「──テオ!」と、その背中に向けて相手の名前を呼ぶと駆け寄り、壁の手をついて足を進めていた相手を抱き止めるようにして身体を支える。血の匂いが濃く怪我が酷い事は直ぐに分かった。当然自身が引き起こした事象のせいで吸血鬼に負わされた怪我だと言うことも分かり、苦しい気持ちが湧き上がる。相手の顔に手を添えてそっと頬を撫でると、暗いブルーの瞳を間近に覗き込む。怪我の手当をしなければと彼の背中に腕を回し、支えながらそう言って。相手を連れて帰ろうと、極力ゆっくりとした歩調で自分の家に向けて歩き始めて。)
……テオ、酷い怪我だ。痛むだろう、僕に身体を預けて。
トピック検索 |