吸血鬼 2021-03-16 10:45:12 |
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(焼け付くような酷い渇きは癒え、不意に耳に入った“愛してる”の言葉に大切な相手の姿が脳裏に浮かんで。路地裏のBarで語り合ったコートを身に纏う相手の横顔、キッチンに立ち手際良く料理を作る相手の笑顔、愛おしそうに此方を見つめる優しい瞳も、気付かぬうちに抜け落ちていた記憶が突然思い出されて靄の中に沈んでいた普段の意識が浮かび上がり。ふと気付いた時に色を失い事切れた人間を腕に抱いている事はこれまで幾度とあった事、しかし視線を落とし腕に抱いた相手の顔を認識するのと同時に息が止まりそうになる。血色の無い肌、首にくっきりと残る吸血痕、目を閉じた相手の眠っているような表情も、嗚呼此れはきっと悪い夢だと思いながらも血の気が引くような感覚。腕に重みは感じているし、酷い渇きは消えていて心臓だけはバクバクと音を立てていて妙に現実離れした事のように思えて。もしかすると自分は取り返しのつかない事を、ずっと何よりも恐れていた事をしてしまったのかもしれないと思うと震える息を吐き出し、思わず相手の名前を呼んだ声は小さく掠れて肩を抱く腕に力が篭り。)
──……テ、オ…?
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