匿名さん 2021-03-08 12:54:03 |
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( 「えー……おばさんのごはん、好きだったのに。管理人さん変わっちゃうんだ」最初に口を開いたのは片無だった。扉を開くや否や喋り出し、その勢いのまま深々と頭を下げた一人の女。その様子に全員が注目する中、覇気のない片無の声はひどくミスマッチに思えた。しかし、そのおかげでふっと場の空気が緩む。咀嚼の途中だったやさしい味付けの肉じゃがを飲み下すのと同時に、確かに美味いが第一声がそれか、と心の中で突っ込みを入れた。「こら、陽生」俺と同じことを思ったのか、篠崎がすかさずフォローに入る。「料理の腕はまだ分からないでしょ。もしかしたらおばさんより上手いかもしれないよ?」……いや、違う。フォローに見せかけた煽りだ、これは。「ね?新しい管理人さん」と無駄に愛想の良い笑顔を向けている様を見て確信する。そのままでは冷たく響き過ぎる片無の言葉を扱いやすくしている側面はあれど、ふざけて便乗しているだけだ。食卓に着く他の面々を見回してみれば、葵はにこにこと笑って見ているだけだし、神谷に至っては既に興味を失って携帯を弄り始めている。こんな奴らの面倒が、この若い女一人に務まるのか。扉の前にぽつんと立っている様子を見ていると、他人事ながらつい心配になってしまう。このままでは収拾がつかないし、管理人初日の洗礼にしては少々度が過ぎるだろう。さりげなく自己紹介の流れに持って行こうと、助け舟を出すつもりで自分の名前を新たな管理人に向かって告げる。 )
7号室の駒田だ。……よろしく。
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