淡雪 2021-02-25 12:12:18 |
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低く唸るエンジン音と、タイヤと地面の擦れる音。
舗装されていない道を走っているのか、時折車体ががたんと揺れて、金属の軋む音が聞こえてくる。
このバスに揺られて、もうどのくらい経ったのだろう。
車内に時計はなく、腕時計と携帯等の通信機器は乗車前に運転手に預ける決まりだ。
さらに、窓には目張りのように遮光性の黒い布が張られていて、今が昼なのか夜なのかも分からない。
唯:
「 あの、あとどのくらいですか 」
仕切りで姿の見えない運転手へ話しかける。
運転手:
「 もうすぐですよ 」
もう何度目か分からないやりとり。
まともに受け答えするつもりは無いらしい。諦めて再び座席に身体を沈める。
目的の場所は相当遠いところにあるのか、それとも意図的に回り道をしているのか、体感としては丸一日ほどバスに乗っている気がする。
車内に私以外の乗客はいない。
手持ち無沙汰に天井の蛍光灯を眺めていると、ほどなくしてバスが停止した。
運転手:
「 つきました 」
唯:
「 え? 」
思わず私が聞き返すと、運転手は平坦な声で繰り返す。
運転手:
「 つきました。目的地、香撫町です 」
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