傍観者 2021-02-22 23:29:30 |
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(彼について聞きたい事なら一から十まで聞いてみたい。生まれは此処なのか、両親はどんな人だったのか、今までどんな風に過ごしていたのか__聞き始めたらきっと際限なく聞いてしまいそうだ。自分は人間のように家族もなければ親からの愛情というのも身に覚えがない。人の生活を知らないわけではないが、自分にあるのは同類の鬼との獣のような生活と、今まで出会ってきた人間との優しさに触れた記憶だけ。彼の暮らしの中にはどんなものがあったのだろう、それを考えている間だけは鬼である事を忘れられそうで自然と顔つきが緩くなっていく。
冷えた風に吹かれて寒そうに腕を擦る彼が家の中に入っていくと、自分も続けて扉を潜って。先ほど特に何も気にせず思った事を言い放った言葉に対して帰ってきた彼の言葉が耳に入ると、頭の中で遡り、自分が何を言ったかを改めて自覚したようで、ぐっ、と妙な声の詰まりが喉で鈍く鳴り「いや、違う…寂しいわけではない……こと、も…ないんだが、そうじゃなくてだな」言った事の意味がどう通じたのかは分からないが、無自覚に彼の存在を必要とし離れがたいとでも言うような発言をした事への恥じらいと、嘘は付けない性格が更に墓穴を掘っていき、しどろもどろに声が尻すぼみになっていくと、んん゛!とワザとらしく咳払いをして仕切り直し)
……それこそ出掛けるなら今みたいに荷物持ちでもなんでも、俺を使えそうな時に使ってくれて構わないんだ。
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