匿名さん 2021-01-26 10:18:28 |
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( 小走りな足音。それだけで、あの人がこちらへ近付いて来ているのが分かった。足音すら聞き分けられるなんて、我ながらさすがに気持ちが悪いとは思うものの、分かってしまうのだから仕方がない。俺の肩を叩いて、〝幼馴染み〟から〝先輩後輩〟になってからはあまり呼ばれることのなくなった愛称で俺を呼ぶ。……分かってる、あの人のやることに意図なんてないんだ。それでも、諦めの悪いこの胸は、たったそれだけでまた仄かな期待を宿らせる。「……遥」追い越して行ってしまう背中に、小さくぽつりと零す。聞こえてしまっては困るから、きちんとイヤホンをつけ直すのを見届けてから、だ。心が、振り返ってくれないかな、と、振り返らないでくれ、の両端で揺れている。もはや自分でもどうしたいのかが分からなくて、そっと目を伏せた。彼女の部活へと向かう足が、やけに重たかった。 )
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